宮崎駿監督が語る『風立ちぬ』や日本の現在未来について、宮崎駿ラジオインタビュー文字おこしPart2

宮崎駿監督、『風立ちぬ』や日本の現在未来について語る!【宮崎駿ラジオインタビュー文字おこしPart2】

2月16日にTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」で放送された、宮崎駿監督インタビュー後半の文字おこしPart2です。
ここからは主に長編引退作となった『風立ちぬ』や零銭について、それに絡めて、現在やこれからのの日本についての考えも語られています。

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画像:TBSラジオ



★Part1はこちらから⇒宮崎駿監督、引退後の生活やジブリ美術館の新情報を語る!【宮崎駿ラジオインタビュー文字おこしPart1】

最後の長編作品『風立ちぬ』を作った動機は?

何で作ったか忘れてしまったんですけど(笑)
あのね、零戦の呪縛から完全に解放されましたね、僕は。
もう小学校の時から、零戦というものは不思議な霊力を持っていて、ずっと何かつきまとっていましたけど、でも今はもう零戦どうでもいい、という気になりました。僕だけ除霊してもしょうがないんですけど(笑)


零戦の呪縛というのは?

零戦はすごかったという神話がひとつあるだけじゃないんですよ。それは特攻に散々使われね、それからある時はアメリカの飛行機を凌駕して、本当に神業のような空中戦もやってる飛行機です。
それからえっと、日本の航空技術が個人のセンスによって、とにかく世界の水準より殆ど並んで、ちょっと鼻っ面が一瞬だけ出た。瞬間です。それはたちまち向こうが進むから、そのままいりゃおいてかれるんですけど、その瞬間です。

それで堀越二郎っていう設計者は、軍がとやかく言わずに、次のやつは好きなように作れって言ったら、とんでもない飛行機を作った男です。と僕は、それはもう確信してるんですけどね。
その飛行機に合った戦術を考えりゃいいんです。ところがそうじゃなかったから、やたらに半分玄人の海軍の連中が色々とやかく言って、結局その道を閉ざしたんですよね。本当にそうなんです。で、それはだけど、その悔しさみたいなのも子供の時から伝わってきてましたから。

そういうことも含めてね、日本の近代史をどういう風に考えるかっていう。その中に、堀越二郎という人は稀有な才能を持った人ですけど、そういう人の中に集中的にあらわれている一種の悲劇で。
それがね、まあ…ずっと自分につきまとっていたんです。なんかスッキリしないんですよね。悔しいというかね。なんで堀越二郎にやらせなかったんだとかね、どういう組織がやらせなかったんだとか、そういうことも含めてです。


零戦や特攻を美しく描く作品が出てきているが?

それは前からありますよ。それが一番楽なんです。そうやって総括してしまうのが。そうするとそこからいつまで経っても抜け出せないですね。自分たちの歴史の見方もそこから抜け出せないです。
もうナルシズムなんですよ。それをずっとやってきたんだと思いますよ。と僕は思ってますけど。だから、僕はそういう形で作らないことによって、もう零戦の本を見なくてもいいっていう人間になっちゃったんです。


ここにきて、日本はそのナルシズムが高まっている気がするが?

ええ、そうだと思います。高まった挙句どうなるかっていったら、ろくなことにはならないですよね。だから、かといってその前と同じ論法で平和憲法を守ってれば平和になるんだっていう考え方でね、やれるほど世の中甘くなくなってきてることも確かだと思います。

いろんな要素が、いろんな要因が増えて膨らんで蠢いてる。そういう時期に来たんだと思いますよね。で、そういう時にどういう風に生きてったらいいのか、渡っていったらいのかということだと思うんですけども、もっと僕は簡単に言うと、日本を真ん中に置いた世界地図を作らないで、こっちの隅っこの方に持っていって、そうすると今の紛争地帯がまさに真ん中に来るんですけど。
そうしてやっぱり隅っこにいる島で、自分たちの歴史問題っていうのは、いくら大陸の口承で、あるいは朝鮮半島の口承で、白村江のような戦いがあったとか、呉が滅びて人がやってきたとか。いろんな口承がありますよそりゃ。元軍が来た、それから日本も秀吉の軍勢が行ったとか。色々ありますけど、基本的に今のごちゃごちゃになっている中近東とか、それから中欧っていうんですかね、ルーマニアとかブルガリアとかね、それからバルカン半島あたりのぐしゃぐしゃになっている折り重なった歴史に比べたら、ものすごく単純だと思います。

何が一番問題かっていったら、帝国主義の時代に、日本も植民地にされないために精一杯努力した結果、自分たちも帝国主義の真似をした。結果的に300万人の死者を出すことをやってね、2発原発も落ちて、そういう目にあった。
それでよその国の、隣の国の、恨みはまだ消えてない。もう法的に解決がついたはずだって言ったって、消えてないからまだずっとくすぶってるんで。でも、それはなんとかしなきゃいけないことなんですが、世界全体の歴史から見るとずいぶんわかりやすい歴史なんですよ。それ僕らの地政学上のね、一番端っこにいるっていう良さだと思ってるですこの頃(笑)

これはね、戦争をやる時には、54個の原発が全部取り囲んでるところだから戦争なんてできっこないって、その通りなんですけど、それだけじゃなくてやっぱり知恵でなんとかやっていける場所にいると思います、日本は。民族と宗教がね、入り乱れてぐしゃぐしゃになって、しかも自然破壊とどうしていいかわからない人口を抱えてねやっている国々に比べたら、日本はなんとかなるんじゃないかと。僕は思ってます。


韓国では『風立ちぬ』について、宮崎駿まで右傾化の賛美をしたのかという批判も一部ではあったが?

そういうのは出るだろうなと予想してたから、やっぱり出たか、くだらないと思ってるだけです(笑)
映画は、公開した時が勝負ではなくて、本当にずいぶん経ってから突然知己に出会うんですよ。本当に。ああこいつ本当に一番深く理解してくれてたっていう人間にね。何年も経ってからたまたま出会うんです。その時にああ作ってよかったって思いが実はするんで、お客が何人入ったとか、いくら稼いだとか、そういうことやってるからつまんなくなるんでね、世の中は。いやそりゃ気にしますけど。気にしますけど、でもそれじゃないですよ大事なことは。映画を作っている側からすると。


『風立ちぬ』は、描いた内容自体で批判や政治的評価を与えられた宮崎作品の最初で最後の作品であると考えられるのでは?

どうでしょうね。要するに、生臭いものを題材にしてますから、飛行機というね。それで軍事的なことしかない日本という国を舞台にしてやってるわけですから、生臭くなることは覚悟してやりましたけど、別に特に政治的なことを描こうと思って、描くことになるだろうと思ってやったわけじゃないです。ただ、僕自身がそれに直面しなきゃないけないだろうってことは感じてました。で、それを作りたいかって、零戦は強かったなんていう映画はね、僕は作りたくもないですよ。

あの、空中戦の映画はですね、零戦が出てくるような映画は、アニメーションでもうずいぶん前に、テレビアニメが始まった頃にね、零戦ハヤトとかですね、そういうものが作られてます。
それで職場にいっぱいアルバイトで流れてきて、零戦なんか描いたことないやつがみんな描いてるんですよ、横でごそごそ。で、頭に来てましたけどね。空中戦を描かせたら俺が一番上手いって(笑)でも描かなかったですよ、僕は。そういうことで描くもんじゃないって。大体あのマンガのレベルの低さでね、そんなもの描いてたまるかって思ってましたから。僕は描かなかった人間です。
ですから、我慢してたっていうんじゃなくて、ちゃんと描ける、描く意味があるかっていう。零戦の空中戦を。そんなことは僕には思いつかなかったですね。

物凄い量の戦記物を僕は読んだんです、中学生の頃から。それでね、何がわかったかというと、読んだだけでこいつ嘘書いてるってわかるようになったんです、本当に(笑)
それで、本当のことを書いてる人間っていうのはほんの僅かいます。ドイツにも2,3人。2人くらいしかいないですね。それで、アメリカ人は大抵誇大に書いてます。
まあ、ただヨーロッパの場合は、戦果を確認するっていうのが戦後ずっとやってる連中がいて、落っことしたって言ってるけど落っこってないとかね、両方のデータつきあわせるだけじゃなくて、どこに落っこたのか探しにいったりですね、一番やってるのはフィンランドですけど、一機一機全部確認してます。
それでそういう戦史を残してますけど、日本は全部まわりが海だったから、落っことしたとかって誇大な戦果がねそのまま語られてる。でそのうちに、ああこの人話し慣れてる人だなって感じでね、あちこちで話してるうちにだんだんすごい戦果に戦闘になってですね、そういう戦記物がいっぱい出てます。それがわかるようになってしまったんです。そりゃ確かめようがないですよ。
だからずっと、何も最近になって始まったんじゃなくて、戦争終わってからずっとやってたことですよ。


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