【動画&全文2】宮崎駿監督のアカデミー賞スピーチ&記者会見
アカデミー名誉賞受賞した宮崎駿監督の記者会見のインタビュー内容全文です。
動画:【宮崎駿監督】アカデミー名誉賞授賞後会見【2014/11/9】
http://youtu.be/ZeC52WKMc_o
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授賞式の感想
一番驚いたのは、同じく名誉賞を受賞したアイルランドの女優、モーリン・オハラに会えたこと。
94歳です、すごい。だいたい僕は、モーリン・オハラさんが生きているなんて、自分が会えるなんて夢にも思わなかった。
これが今日の一番、生きているととんでもないことが起きるんだ、という感想です。
重いんですよ。
ちょっと持ってみてください。どれだけ重いかわかるから。(手に持ってみる質問者の記者)
これしかも箱をくれないんですよ。
モーリン・オハラさんが車椅子で出てきたんですけど、これを手に持ったら、金が銀でできてればいいのにと言ってました(笑)
ジョン・ラセターさんの陰謀ではないかと。
相当運動したに違いないとか色々思っているんですけど、わかりません(笑)
(今回は受賞式に出席したのも)ジョン・ラセターの脅迫です。
怖いんですよ。これはもう行くしかないという感じだったんです。それで陰謀説を僕は思ってるんですけども。
いや、本当に友情が厚いんです。もうなんでこんなに友情が厚いだろうというふうな男ですね。だから仕方がないと。
これ(タキシード)は家内と二人でデパート行って買ってきたんですけど、生涯1回しか着ないもんだけど、まあそういうこともあるだろうということで。
初めて蝶ネクタイもして、これホックで留めればいいやつなんですけど、似合うも似合わないもないですね、はい(笑)
本当のことを言っていいなら言いますけど、関係ないんです。つまりアカデミー賞ってのはね、モーリン・オハラとかですね、そういう人たちのものであって。
アニメーションをやろうと思った時に、アカデミー賞に関わりのあることをやることになるだろうなんて思ってもみないです。それは目標でもないしね、視界に入っていない出来事でしたから。
とにかく何が驚くって、モーリン・オハラさんに会うなんて、僕はもう本当に思ったこともなかったから。
車椅子で来られたんですけど、始まる前に挨拶にちょっと伺ったら、向こうは僕のこと何もわかるはずないですからね、お孫さんが世話をされてて、その方が声をかけてくださったんですけど。
振り向いた時にね、こういうふうに(仕草を真似してみせる)、シルエットが昔のまんまなんですよ。ハッ!と思いました。
直接やりとりしたというほどのことはないですけど、「『わが谷は緑なりき』のあなたが素敵だった」と僕は言いました。そうしたら、「ジョン・フォードは本当におっかない監督だった」って仰ってましたけど、それ以上とやかく言う時間はないですからね。
すごいですね、生きてるといろんなことがあるだと本当に思いました。
もう大きなものは無理ですが、小さなものはチャンスがある時はやっていこうと思っています。ただ無理してもダメなんで、もう。だから出来る範囲でやっていこうと思っています。
僕らはジブリの美術館があるものですから、お金に関係なしに、つまりどれだけ回収をできるかっていうのをなしに公開することができるんですよ。
そうすると、今もう9本できてるのですけど、1本につき1年間に一ヶ月以上やることになるわけです。その時に来てくださったお客さんはみんな見ていってくれますから、けっこうお客さんの多い映画になるんですね。
つまり、売れなくていいわけですから、こんなにいいチャンスはないんですね。ジブリ美術館の短編映画は作れる限り作っていこうと思っています。
現役じゃないでしょう?現役っていうのはもう少し仕事やると思うんですけどね(笑)
あんまり自分を「現役」って叱咤激励してやったところで無駄だから、出来る範囲でやっていこうということでいいと思いますけどね。
今日94歳とか87歳とかそんな人ばかりに出会ったものですから、本当に小僧だなと思ってね。僕、73なんですけど、恐れ入りましたという感じでね。
リタイアとかなんとかあまり声を出さず、やれることをやっていこうと思いました。
(美術館の展示は)1年で展示替えになるんです。そうすると、もう次のことを考えなきゃいけないんですよね。これもけっこう手間がかかって大変ですね。
この次の企画は、もし今はなしている企画が決まるとしたら、あんまりお子様へのプレゼントじゃないですね。
(どのような企画かとの質問に)それはまだ発表できないです。だってやるかやらないかまだ決まってないんだもん。
(中継を見ている多くの視聴者から、短編期待しているとの声に)ありがとうございます。されない方が楽なんですが(笑)
モチベーションは毎回衰えるんです。それで、ある日突然、こんなことではいかんと力を取り戻そうと思うんですけど、そういうことの繰り返しです。
僕の歳になったらそうだと思います。そうじゃない人もいると思うんですけどね。
でもまあ、あんまり齢をとって仕事仕事といってるのもみっともないし、あんまりぽーっとしててまわりに迷惑をかけてもいけないから、ほどほどのところで。
自分の仕事場に入って、途端に机にかじりつくってよりも、そのまま寝てしまうことのほうが多いから。まあ起きますけどね。
疲れが出るテンポが緩やかなんですよ。若い時は半年くらいで疲労がピークを越えて回復に向かうんですけど、それが出てくるのが遅くなる、なおるのも遅くなるという風に、どんどん後ろにずれてきて。
歳をとると、たとえば山登りをして、筋肉が二日くらい痛くならないんですよね、なんともないやーなんて思ってる途端に、階段のぼれくなったりするんです。それと同じような感じを今味わっていますね。
これは前の作品のせいなのか、今までの悪業の報いなのかわかりませんが。初めてのことだから、やってみないとわかりません。
ただ、美術館の展示については、可能な限り噛んでいきたいとは思っていますけども。
鈴木Pはずいぶん面白がってましたね。
僕はラセターが横に座ってて、しょっちゅう握手したりハグしたりいろんなことされて、冗談じゃないですよね(笑)
あんまり大体得意じゃないんです、そういうものが。でもまあ、できるだけにこやかにやってきたつもりです。氷の微笑みみたいに、こう。(と顔をゆがめてみせる)
賞ってね、もらえないと頭にきますよ。でも貰って幸せになるかっていったら、ならないんですよ。なんにも関係ないんです、実は。
それで自分の仕事が突然よくなるとかね、そういうことないでしょ。もうとっくに終わっちゃった仕事ですからね。
それで、その結果を一番よく知ってるのは自分です。
あそこがダメだったとか、あそこは失敗したとか、誰も気が付かないけどあそこは傷だとかね、そういうもの山ほど抱えて映画って終わるんですよ。
だから、お客さんが喜んでくれたっていっても、そのお客は本当のことをわかってない客だろうとかね、だいたいそれくらいの邪推をする類の人間なんです僕は。
だから、自分で映画は終わらせなきゃいけない。
賞をもらえれば嬉しいだろうと思うけど、賞によって決着はつかないんです。
むしろ、それなりに翻弄されますから、ドキドキするだけ不愉快ですよね。不愉快って変な言い方ですけど。
僕、審査員には絶対ならないつもりなんです。順番は絶対つけない!
答えになってないですかね?(笑)
いや、ご飯食べる暇もないですからね。
いろんな人が来て、「俺はナントカで、前にジブリに行ったことがある」とかね、覚えてないですよ。それで、しょうがないから握手してどうもありがとうとか言って、そんなことばっかりやってなきゃいけなくて。
(ハリー・ベラフォンテは良かったですよね、と鈴木P)ハリー・ベラフォンテさんも受賞されたんです。この人は、87?88で大演説ぶってましたね。人種差別を。人種差別と戦い続けてきた人ですから。
それでシドニー・ポワチエが…(87歳、と鈴木P)、80代ですからね、こっちは小僧ですよ。それでなんせ、モーリン・オハラさんが94でいるんですからね、どうしていいかわからないですよね。隅っこの方で小さくなるしかない。
(記者から、宮崎監督が一番若い受賞者で、受賞者の平均年齢が84歳であるといわれ)モーリン・オハラさんが稼いでるんです(笑)
もちろん、年齢がもたらすものを十分モーリン・オハラさんも抱えていたけど、お孫さんがついてて、お子さんたちは既にお亡くなりになっているかなっていないかわからないけどね、そういう齢ですよね。でも、素敵でしたね。
僕は堂々とね、こっそり言ったんです、「とても綺麗です」って!本当にそう思ったから。
(ここで記者、レッドカーペットでモーリン・オハラさんに「今日、宮崎監督が来たのはモーリン・オハラさんに会うためなんですよ」と伝えたら「私も会うのを楽しみにしているわ」と言っていたというエピソードを話す)
それはもう、大女優をずっと続けてきた人だもんね、それくらいのさばきはできますよ。
だってミヤザキなんてわけのわかんない奴、知ってるわけないじゃないですか。
あのね、ちょっと会場で映像を流しても、モノクロ時代のスターって本当にスターなんですよ。映画はモノクロ時代は本当にそういう意味を持っていたんですね。それだけでもう、ヤバイですよね。スゴイ!って(笑
そういう上手な結論にはいきません、話まとめるにはいいでしょうけど(笑)
その部分は変わらないです。自分に何ができるかということと、何ならやるに値するのかということ、これなら面白そうだということが一致しないといけない。
それから、製作現場を作っていく時に条件がありますから。お金の条件だけじゃないんです、人材の条件もですね。それを満たすことができるかとか、そいうことを考えなければいけませんから。
美術館の短編というのは10分ですけども、世界を作るという意味では1本分のエネルギーがいるんです。
ただ、人間が喋らない映画にしたいと思っていますから、台詞がない映画にね。そういう点では楽ですけど。
もう年寄りは何やってもいいんですよ。無声映画だってやっていいと僕は思ってるんです。
今モノクロでやろうとするとかえって大変だから、それはやりませんけど。
自分がやりたいこと、でも同時にスタッフにとっても、一度はやっても意味があるだろうという仕事でなければならないと思ってるんです。
なんとなくワーッとやって手伝ってたら終わっちゃったじゃなくね、そういう仕事のやり方や現場が作れないかなとは夢見ますね。
そうじゃないと毎日行きたくなくなるもんね。そういうことは思いますけど、なんか時間がかかりそうでヤバイですね(笑)
むかし僕はものすごく手が速かったんですよ。だんだん遅くなるんです。
1日に14カットの原画をチェックしなきゃいけないっていうノルマを自分で組み立てた時があったんですけど、それがトトロの時に6カットになったんです。
1日6カットだけやればいいんだ、なんて楽なスケジュール!って思ったのに、もう全然6カットがいかないんです。中身が変わってくるのと自分が歳をとっていくのでどんどん遅くなるんです。
最後の作品では、1日3カットやってればよかったんですけど、3カットができないんです(笑)
【動画&全文3】宮崎駿監督のアカデミー賞スピーチ&記者会見へつづく。