宮崎駿監督、引退後の生活やジブリ美術館の新情報を語る!【宮崎駿ラジオインタビュー文字おこしPart1】
宮崎駿監督、引退後の生活やジブリ美術館の新情報を語る!宮崎駿監督ラジオインタビュー文字おこしPart1
先日TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」で放送された、宮崎駿監督インタビュー後半の文字おこしPar1です。
最近はジブリ美術館の新しい企画展示の仕事にお忙しいようです。新企画は、なんと江戸川乱歩!?監督の近況や、アニメーションで「観察して描く」ことの大切さなど、たっぷり語っています。
画像:TBSラジオ
Q最近の宮崎監督はどうしているか?
週休二日になっています。
ここ(アトリエ)に来てますけどね。ここに来て働いているのかというと、働こうと努力はしているんですけど、薪を割ったり、隣の保育園を覗きにいって邪魔してみたりとか。
でも美術館の仕事をやってますから。これが難題でして。
Q. 美術館の仕事とは?
今さっきも実はここで大騒ぎしていたんです。企画展示っていうコーナーがあるんですよ。それを何で埋めるかっていうのが思いついてしまうもんですから、それを提案すると、結局思い通りにはならなくなって。
今やってるのは…(鈴木P?に)これラジオで言ってもわからないでしょ?(笑)
江戸川乱歩の『幽霊塔』っていうね、小説なんです。
※江戸川乱歩の『幽霊塔』。黒岩涙香の翻案小説を乱歩が更に翻案した長編小説。
アリス・マリエル・ウィリアムソン(Mrs.Alice Muriel Williamson)の小説『灰色の女』(A Woman in Grey, 1898年)を基にした日本の翻案小説。時計塔のある古い屋敷を舞台に、因縁の人物が入り乱れ、迷路の奥に隠された宝を巡って繰り広げられる探偵小説である。(Wikipediaより)
これは僕が子供の時に貸本屋で借りて、ものすごく面白かったんですよ。
それでけっこう自分が歯車の絵を描くとか、そういうことに繋がっていった本なんですけど、挿絵を見てびっくりしましたけどね。こんなひどいものだったのかと思って(笑)
昭和12年かなんかの本です。それを復刻したものですね。
実は、『ルパン三世カリオストロの城』というのをずいぶん前に作ったんですけど、それの源流は幽霊塔なんですよ。そのままではやってませんけど。
カリオストロのどこらへんに幽霊塔の影響が?
時計塔であること。それから、かたっぽにローマの水道で繋がっているお城があるんですけど、それが一つの建物にくっついているのが幽霊塔の構造です。
一番下に迷宮があって、それでてっぺんが時計がある。映画ではそのままやってませんけども、ひとつの建物を舞台にして作られている作品っていうのは、実は日本にないんですよね。
原作があったから江戸川乱歩も書けたんでしょうけど、それはイギリスの古い館を舞台にした小説があったからなんです。
<カリオストロの源流となった江戸川乱歩とヨーロッパ建築>
日本のお城ってね、妖怪が棲み着くにはいいんですけど、あとは構造的には使い様がないんですよね。
日本の建築物っていうのは、壁の中が二重になってるとかって言ったところで、あの金沢のほうに忍者村っていうのがありますけど、あんなものかけや一本持ってくりゃ全部ぶっ壊せるでしょ(笑)壁がくるっとひっくり返るとかね、掛け軸のところに穴が開いてるとかね、鈴木さんはそういうの好きかもしれないけど(鈴木Pの笑い声)。構造的じゃないんです。
それでヨーロッパ行くと、石の壁の物凄い厚さとか、本当にここに抜け穴があってポポロ広場まで通じてるんだっていわれたりね、そういうものを持っているのはやっぱり石の文化のところですよね。
で、そういうものに対する憧れがあったものですから、幽霊塔にその片鱗があったんです。
Q. 美術館ではどのような幽霊塔の展示をするのか?
幽霊塔を美術館の中に建てちゃおうっていうバカげた話で。
(美術館に)螺旋階段があるんですよね、鳥かごみたいになってるんですけど、実際小さいこどもが上ろうとすると途中でわかんなくなって立ち止まったりしてるんですけど、それをすっぽり覆おうっていうね。
どうなるんでしょうね。空気抜けの穴をいっぱいつけようって言ってるんですけど、それを作って迷路を作ろうとか、迷路にも入らないし螺旋階段も上らない人のために一応もっともらしい展示もやらなければいけないという(大変ですね(笑)と鈴木P)。そりゃ大人が読むだけで子どもは読みません。
<3%の原則>
子供たちは、3%の原則って言ってるんですけど、どっか100人のうち3人が気に入ったものがあればいい。トイレがよかったとかね、このハンドルがよかったとか、本当にささやかなものでいいんですよ。
で、出し物だけでお客さんの気持ちを集めようとか、そういう野心は持たない。
くるみ割り人形っていうのも今やってるんですけど(※現在開催中の『クルミわり人形とネズミの王さま展』)、これも大騒ぎしたんですけど、こんな大きなケーキを作ったんですよね。触れるやつを。子どもはみんなまっすぐそこへ行って、触ったりこっそり舐めたりね。舐めても味しないんですけど。それで満足して帰るんですよ。
★関連記事:ジブリ美術館「クルミわり人形とネズミの王さま展」を見てきました。
だから、大人のための展示と子供のための展示は違うんです。両方またがる人もいるけど。
そういうことで考えると、幽霊塔も「怖いぞ」っていうのと、それから幽霊塔っていうのがどういうかたちから江戸川乱歩まで繋がってきたか。
実はもともと一番の大もとは、イギリスのミステリーの祖って言われているウィルキー・コリンズって人の『白衣の女』っていうのがあるんです。そこまでさかのぼるんです。たぶん本当にもっと調べたら、もっとさかのぼるのかもしれないです。誰かこれ論文書かないかなみたいな話になってきて困ってるんですよ今(笑)
(宮崎さんが書くしか…(笑)とインタビュワー)いや僕はもうそんなもの書く気がしないんですけど、だから忙しいんですよ(笑)
(それに週5日勤務してるわけなんですね、とインタビュワー)大半は寝てますけどね。困って(笑)
※ウィルキー・コリンズによる、英国ヴィクトリア朝の長編推理小説・恋愛小説『白衣の女』
1859年からディケンズの雑誌All the Year Roundに連載。1860年出版。発表と同時に伝説的なブームを巻き起こす。書店に行列ができ、時の蔵相グラッドストーンは友人とのオペラ鑑賞をすっぽかしてまで読みふけったという。美術教師ハートライトと、その生徒ハルコムの視点から語られる、全身白い衣服に身をまとった女の話。岩波文庫所収。
T・S・エリオットは、この作品は「最高の人間描写」を含んでいると激賞した。(Wikipediaより)
引退されて、今も「もうアニメの苦労はごめんだ」という気分か?
短いものは美術館の仕事がありますから、作る可能性はあると思ってます。
ただまあ、いい時に辞めるって言ったんですよね。フィルムはなくなった、それからアニメーションにコンピューターが入り込みすぎて、スタッフももう脳みそがコンピューター化してるっていうそういう時に居合わせて、もういいよっていう感じが僕の中にありますから。
だから、これで無理して手描きの現場をつくる必要があるだろうか、無理してCGでセルガ風に画面をつくるとかね、そういうことをやる意味があるだろうかっていったら、ないですよね。もう隠居していい齢だから。だからそれはやらない、それでいいんじゃないかと思ってるんです。
アニメの仕事と美術館の仕事の情熱のボリュームは変わらないか?
情熱のボリュームは変わらないです。ただ手間は、アニメーションはやりたくないことをいっぱいやらなければいけないんです。
細かいことだけじゃなくて、絵を見てなんだこれはって思うような絵がここにもありますけど、この人の名誉のために名前は言いませんけど、本当に些細なことだけどアニメーションでやった場合に、これじゃだめだっていうのが出てくるんですよ。
今ちょっとお見せしますね(と絵を見せる)。この男がロウソクを持ってるでしょ。火はついてませんけど、あのね、ロウソクってこうやって持たないですよ。垂れてくるもんですから、こうやって持ちます(ポーズをして見せている模様)。こうやって描くってのは、この人ロウソクを持つっていうことをね、官能的に理解してない証拠なんです。こうやってロウソク持って火をつけて歩いたら垂れたロウが全部手にかかるじゃないですか。最小限にするためにこうやって持ちますよね。それはだめでしょ、そういうことを直さなきゃいけないんですアニメーションは。それが大抵のやつはこうやって持ちます(笑)
<映画にリアリティをもたせるということ>
映画の効果としては本当に0.1ミリくらいの差なんです。0.1ミリくらいの差だけど、それをぬかりなくやらないと映画のリアリティっていうのは、最後に1ミリくらい違ってくるんです。
せいぜい1ミリくらい(笑)そういうものだと思うんですけどね。それは本当に長編の時はしんどいですね。
(そういう染みついた見方があるから、こういうの読んでてもロウソクの持ち方が気になっちゃうわけですか?との問いに)気にならない。こいつ下手だなって思うだけで。
基本的に物を観察してない証拠なんです。絵の訓練はしたかもしれない、人の絵を真似してね。だけど人間を観察してない。
これはもうね、人間を観察してるかどうかっていうのは瞬時に伝わってきますから。型で絵を描いたらだめなんです。アニメーションは特にそうです。
気の毒な絵描きさんですけどこれ。例にひっぱりだして。
(パート2に続きます。)
【関連リンク】
・TBSラジオpodcast:荒川強啓 デイ・キャッチ!宮崎駿さん独占インタビュー(ロングバージョン)(外部サイト)