イスラムや風刺画問題を語る宮崎駿ラジオインタビュー文字おこし前編

イスラム問題、風刺画問題を語る宮崎駿ラジオインタビュー文字おこし前編

2月16日にTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」で放送された、宮崎駿監督インタビュー前編の文字おこしです。
前編では、フランスの風刺画の問題、イスラム国の問題、表現の自由、大量消費問題など、昨今の情勢について語られています。

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画像:TBSラジオ


今の世界情勢をどうとらえているか?

本当に僕もね、この世界情勢についてどうやって総合的につかまえていいのか本当にわからなくなって。
ルーマニアとブルガリアの写真をちょっと見せられて、ああこりゃ面白いところだって思ったんです。で、なぜかっていうと、舞台を外国にする時に、西欧は、自分が行った範囲ではだいたいこんな建物が建ってるだとか、そういうのがあるんですけど、ルーマニアとブルガリアを見たら違うんですよね。トルコの影響も十分に受けている。イスラムの影響も。で、実に魅力的な建物があることがわかって、それでそこらへんの歴史、歴史ったって「地球の歩き方」にある歴史かなんか読んでね、ハァこの複雑さ!これは大変な、とんでもないものがグチャグチャになって折り重なってると。それはバルカンもそうですね。


それからチェーホフがちょっと好きなものですから、チェーホフの短編の中の「美女」っていうのは、ちょうど今問題になっているウクライナの東側の方です。そこらへんのところを旅する短編を読むとね、アルメニア人の村があったり。アルメニアってこっちだよな、とかね(笑)本当にこう、ある民族がひとつの国を作ってるんじゃない。いろんな民族が入り込んできて、その地域ができて、そこになんか政府みたいのができちゃった、みたいな成り立ちですから。いろんな民族がいる、何が火を噴くかわからない。その点、俺たちは簡単なところにいるじゃないかって(笑)なんて簡単なんだろう、東アジアは。それが実に気が楽になった原因なんです。

じゃあ人類全体はどうすんだって、それはちょっと勘弁していただいて、とりあえず自分の、まあ自分の孫も含めて、隣にいる20何人いるチビたちとかですね、その未来を考えた時に、おじいちゃんどうしたらいいですかって聞かれた時に、まあここでひっそりしてようって、東のはずれで(笑)
(東のはずれで簡単なはずなのに、まったく簡単じゃないですよね?とインタビュワー)
あらゆる国はそうですよ。あらゆる国はそうだと思います僕は、そういう時期に来てる。フランスのテロのことでも、なんか釈然としないですね。
(フランスのテロ事件についてどう思うかと問われ)そういうことは起こるだろうと思います。起こるところにいますよ。

諷刺画の世界について、表現者としてどう思うか?

諷刺画はまずもって、自国の政治家に対してやるべきであって、他国の政治家に対してやるのはうさんくさくなるだけです。それはもう第一次大戦の時から始まってね、そういう漫画によって国民を教育するっていうのはずっと行われてきたわけですから。
異質の文明に対してね、人が崇拝してるものを、カルカチュアの対象にするのは僕は間違いだと思いますけどね。そりゃやめたほうがいいと思いますよ。イスラムだっていろんな宗派があるし。


宮崎さんも戦中生まれですが、テロとの戦い等でいさましくなっているような今の情勢をどう見るか?

や、僕は41年生まれですから、戦中とはいいません。多感な時期に敗戦や戦争を経験してないとだめです。僕は4歳ですからね、戦争が終わった時。空襲くらいはちょっと覚えてますけど、それが自分の内面にどういう影響を与えたかっていうのは、本当に決定的なものじゃないんです。
あの、たとえばですね。食べ物に関しては消費税をかけないとかいう意見がね、いかにも年寄りのことを考えたような意見として出てくるけど。いいですか、その年寄りたちが買ってる食い物はね、こんだけの食い物をこんだけ過剰に包装して、ビビビッとこう破いて捨てて、それがゴミになって出てくりゃまだいいんですけど、そこらへんに捨てられてるとか、それが食い物の実態ですよ。何を言ってるかって言うと、大量消費っていう文明そのものに問題があるんですよ。


何も日本国に起こってることだけじゃないんです。僕らが何かの拍子にモロッコの方に行った時に、砂漠に行ったらね、黒い鳥がいっぱい舞ってると思ったら、それ全部黒いビニール袋なんです。ゴミの袋。腐らないですよね、そりゃ。それがもううわーって舞ってるんです、街の上に。ゴミだらけです。日本もゴミだらけ。それで買ってくりゃいいんだって、安いものみつけて買ってくりゃいいんだ、それを買うお金さえあれば問題ないんだっていうね、骨の髄までそうなってて。
こう、お米一粒でもお百姓さんが汗水たらして作ったもんなんだから、そんなもんこぼしちゃいけない、大事に食べなきゃいけないって、僕は拾って食べたらお婆ちゃんに褒められたことありますよ。「この子はいい子だ」って(笑)そういう感覚が、何もご飯粒の問題だけじゃなくて、なんでもとにかく金持ってれば買えるんだって、安いものが正しいんだって、上手な買い物をして商品知識を身に着けて通販をやれば賢いんだと思ってるでしょ、それ最低なんですよ実は。それが最低なんです。
一番ね、その政治思想も何も、そのもとになっている生活そのものが、僕も自分でも最低だと思いますけど、本当に最低になってるんだと思います。そんな民族にね、ろくな判断がつくはずがないんですよ。


で実は、大量消費文明そのものが行き詰まりつつまるから、あちこちで騒ぎが起こってるんだと思います。でも大量消費をしたいんですよ、みんなね。でもできないんです。そりゃだって資源は限界があるって言ってるんだから、ずいぶん前から。もう50年続かないだろうって言ってる、それからもう30年くらい経ってますから、そろそろ限界が近づいてきてるんです。
今のイスラム国の問題も、日本のやたらに札束を刷ってるようなね、経済の運営の仕方も、末期的症状のあらわれる前駆症状じゃないかと僕は思ってます。まだ本番が来てるわけじゃない。


イスラム国の是非は別としても、ある種の消費社会に対する挑戦であるといえるのでは?

ええあの、イラクの戦争の時にね、捕虜収容所でね、すっぱだかの捕虜に首に鎖をつけて、若いアメリカの女兵士が写真撮ったやつが漏れて、週刊誌に載ったことがありましたよね。もうイスラムは許さないと思いましたね。これ300年かかっても許さないだろうと。許さないですよ。これはもう、火つけちゃったんですね。それは今、家族を抱えて戦争をしたくないムスリムの人々もいっぱいいると思いますけど、一方でこれは火がついてしまったなと。

無秩序、世界的な無秩序っていうのはこれからさらに起こってくるだろうと思うんです。そういう時に安倍さんの言ってることはシンプル過ぎるっていう懸念は僕は思っています。もう少し、腹に何か複雑なものを抱えてやらないと。そういう時にね、平和憲法ってとても役に立つんですよ。我々はこの憲法守らなきゃいけないんでね、ちょっとそっちに行きたいんですけど行けないですっていうね。

最近、この国の言論の自由が委縮しているのではないかと思うが?

それはね、鈴木さんがまず憲法について新聞に語ったら、電車の中で「ナイフで腹刺されますよ」って言ったやつがいたんですよ。そういうことをね、冗談でも言うやつがいけない。そうするとブスッと刺されたような感覚を持つんですよ。それね、冗談でもそういうことを言うこと自体が友人じゃないですよね。刺されりゃいいんですよ、実は(笑)鈴木敏夫死すとも自由は死せずとかなんとか言ってね(笑)

自粛みたいなものが怖いってことですか?

いや僕はね、怖いも怖くないも愚かなやつは自粛するだろうし、自粛した程度のものしか考えないで発言してたんだなってことだと思うんです。それほどそれが世の大衆を占めてるんでしょうか、それは僕はわからないですね。


(インタビューはこの後、宮崎監督が現在手がけているジブリ美術館の新企画や、『風立ちぬ』について語るインタビュー後編へと続きます。)


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